Made of だんぼーる
〜〜〜尾行の結果
〜〜〜尾行の結果
【陽司】で・・・どうするよ?
【月子】どうするって?
・・・驚いた。
何が驚いたってとにかく驚いた。
その驚きのサイズも数もクオリティも。
【陽司】どんな家に住みたい?
【月子】壊れない家。
【陽司】まあな。激しく同感だ。
どうしてこんな場所があるのだろう。
こんな空間は在り得るのだろうか?
確かにこの世には不可解なことが多数存在しているけれど・・・しかしここまで不一致極まりない場所も珍しかった。
【陽司】その辺りはこのビニールと、あとそこらの枝で補強することにしようぜ。これできっと大分マシになる。
【月子】うん。
【陽司】あーーじゃなくってさ、イメージとかない?こんな家に住みたいなあ・・・とか。
【月子】・・・・・・・・・広いテラスのある素敵なログハウス・・・。
【陽司】無茶言うな。こちとらダンボールだべ。
【月子】残念・・・。
ここは全く別の場所だった。
彼らは気づいているのだろうか。
僕はただ彼らを追いかけて山道を登ってきただけだった。
風見神社への狭いけど落ち着いた風情のある公道を登って・・・
その風見神社の奥に隠されるかのようにあった謎の山道に入り込んで・・・
そうしてまたしばらく歩いてまた謎の獣道へとそれる。
気づいたらここにいた。
風見温泉街でも風見山でもないこの場所に。
【月子】じゃあダンボールパレス。
【陽司】パレス?
【月子】敷地300坪・・・4階建て・・・シャンデリアや数々の煌びやかな装飾が・・・
【陽司】却下っっ!
【月子】だいじょぶ・・・全部ダンボール製・・・。
【陽司】匠の世界だソリャ!無理!潰れる!構造に欠陥あるぞっっ!
【月子】ということで却下。
【陽司】自分ですなっ!
疑うなら一度ここから麓をのぞいて見ると良い。
そこに街はない。温泉街の姿はない。
道も田んぼも、墓場も住宅街もない。
何もない。
人の気配がない。
あるのは樹海だけだ。
そしてそれは果て無く続いて・・・青い空の稜線と重なり合っている。
ただの樹海じゃなかった。
それらは全て桜だった。
桜の海だった。
そうしてその桜の海に一箇所だけ、この場所だけ青々とした夏の木々の領域を保っていた。
それ以外は・・・
淡い桜の海に埋まっている。
それは異様な雰囲気だった。
人の心を縛り付けてやまない何かがあった。
一目みて気に入ってしまった。
彼らがここを己の住みかに選んだ気持ちがよくわかる。
ここは現実じゃないんだ。
ここは空っぽの世界だ。
それでいてとてもとても綺麗な世界。
夢の世界。
楽だ。
この世界は楽だ。
だって現実じゃない現実の世界なのだから。
僕は・・・・・・
【陽司】お前に聞いた俺がバカだったよ。俺は今回もっと広く作ってみたいと思ってる。というか今まで狭過ぎたしな。
【月子】反対・・・狭い方がイイ。あの密着感が・・・・・・イイ・・・。
【陽司】密着感って・・・ああ〜〜〜何考えさせんだよっ!けどイザってとき広い方が何かと便利だろ!?
【月子】ヤダ。
【陽司】なんで!?
【月子】・・・・・・ぽっ。
【陽司】「ぽっ」ってなんだヨ!「ぽっ」って!
【月子】は、恥ずかしい・・・。
【陽司】・・・・・・・・・・・・。
【月子】夜ね・・・一緒に寝るでしょ。
【陽司】お、おう・・・。
【月子】その時ね、寝てる陽司をイロイロ弄るの。
【陽司】・・・・・・・・・はい?
【月子】色んな発見があるの。鼻と口塞いでみたり・・・鼻塞いでキスして偽人口呼吸ゴッコしてみたり・・・。
何!?
【陽司】ぬあぁぁんですとぉぉぉ!!?
陽司くん大絶叫。
なんかすっげー赤い顔して空に吼えてる。
【月子】だから狭くてイイ。狭い方が・・・イイ。
ふむ。率直かつ正直な意見だ。
なかなかイイ子だ。「良い子」じゃないかもしれないが・・・。
気に入ったぞ月子ちゃん。
【陽司】却下!勝手に何しやがるテメェ!き、ききき、キス!
ピュアだなあ、陽司くん。
ぶるんぶるんと指先を動揺に揺すらせて月子くんにまた吼える。
【月子】マシュマロみたいだった・・・・・・。
・・・・・・クリティカルヒット確実だな。
【陽司】ぎゃああぁぁぁぁ!!やめろぉぉ!
しかしまあ・・・陽司くんのこの反応。
ちょっと月子ちゃんに可哀想なんじゃないかなあ・・・って。
笑ってるよ・・・月子ちゃん、あの薄ら笑いで。
【月子】・・・・・・舌を中に入れると・・・ビクンっっ!って陽司くん大反応。
ほう・・・青いな。
【陽司】こ〜〜〜〜のセクハラ女っっ!こうなったら意地でもなんでも広くて快適リラックスハウスを作ってやる!
【月子】狭い方が・・・
【陽司】却下!ダマれっ!
セクハラか・・・・・・こーいうとき女って有利だよなあ。
【陽司】じゃ!二代目秘密基地は広くて快適リラックス、かつてない生活水準がここに!? をスローガンとしていく!
何、秘密基地!?
【月子】結局、陽司の独裁・・・。
【陽司】ならタマにはマトモな意見出せよ!
【月子】ふっ・・・・・・。
【陽司】むっかつくなあ・・・。
【月子】じゃ、役割分担ね。私は何すればいいの?
秘密基地・・・・・・。
・・・・・・・・・それだ!
それこそ今の僕に足りないもの!
【陽司】はぁ・・・そうだな・・・。取りあえず前の基地にある荷物をこっちに持ってきてくれ。
【月子】全部?
【陽司】うん。それ終わったら補強に使えそうな木を探してきて。
【月子】わかった。
秘密基地!
それって萌えだろ!
なんつーかこう・・・青春!ロマン!男のろ〜ま〜ん!
熱い!熱過ぎる!ヒートだぜ!
うおおおおおぉぉぉ!
仲間に入れて欲しい。
仲間に入れて欲しいっ。
仲間に入れて欲しいっっ。
仲間に入れて欲しいっっ!
仲間に入れて欲しいっっ!!
しかししかし・・・こ、ここは我慢だ・・・冷静になれ、加持茂よ。
思い出せ。
温泉街ですれ違った時のあの少年の目付き。
なぜかはわからんが陽司くんは月子ちゃんを守ることで必死だ。
ここでポー―ンとあ〜そ〜んでっっ! って言っても確実に遊んでくれない。
となると―――
どうする。
・・・・・・・・・ふむ。
月子ちゃんか。
陽司くんにお願いするより、月子ちゃんと密会してアプローチするのが良いだろうな。
何だかんだで陽司くん尻にしかれてるし。
よーっし、となるとプレゼントだ。
好感度アップだ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・っていうか、なんだろな。
な〜んかほっとけないんだよなあ、この子たち。
・・・・・・・・・・・・う〜ん。
まあ、よし。
帰り方がよくわからんが、まーー来た道をそのまま引き帰せば帰れるだろ。
迷ったらそのときはそのときってことで。
ということで、早速準備。
僕ははやる心のままに山道の傾斜を駆け下りた。
その彼方に桜の海が広がる。
なんて妖しい美しさなんだろう。
元来た道を外してそこに飛び込んでみたくなった。
・・・・・・それを我慢して走って、そして転んだ。
痛い。
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